依存症に負けない大人の習慣化のコツ

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7.習慣の問題点


 習慣の利点は、生活の様々な場面で取るべき行動を自動的に実行できる点にある。ただし、この自動的に取ってしまう行動が問題を引き起こす事がある。いくつか私が体験した事例を示したい。

事例1)自動と手動の勘違い

 私が初めて車を買ったのは、就職した24歳の時だった。車を買って最初に感動したのは、ドアの施錠を無線で自動開閉できるキーレスエントリーだった。キーについたボタンを押すだけで鍵が開く便利さに大変感動したものだ。 

 初運転で何度もキーレスエントリーを使ううちに、すっかり癖になってしまった。その印象があまりに強かったため、初運転から帰って家に入る時、つい家のドアの前で車のキーのボタンを押してしまった。しかし、家のドアの鍵は開かない。そもそも家のドアの鍵に自動開閉の機能などついてないのだが、キーレスエントリーのボタンを何度も押してしまった。30秒ほど経ってから、家のドアの鍵は手動だと気づいて恥ずかしい思いをした。
 

事例2)ドアの開閉方向に混乱

 事例をもう一つ。こちらもドアの話だ。私の家のドアは、中から外に向かって押して開ける開き戸だが、建物によっては逆に外から中に押して開ける開き戸もたくさんある。今ではドアを開ける方向を気にすることはないが、子供時代はよく戸惑ったものだ。用を済ませてお店を出ようと、お店のドアを何度も押すのだが開かず、鍵を閉められたと思って半分パニックなったのだ。そこへ、外からドアを押して入ってくるお客さんが来て、やっとドアを開ける方向が逆だと知り、ホッとしたことを思い出す。
 
 この2つの事例には習慣の危うさが見える。「自動で開く」と「手動で開ける」、「外向きに開ける」と「内向きに開ける」のように、自分が習慣として身につけている行動と全く反対(あるいは全く別)の行動を要求される場面が生活の中には結構ある。しかし、そのような状況に、その場ですぐには気づかず、正しい行動が取れなくなるという危険性があるのだ。この2つの事例は笑い話で済むが、状況によっては人の命に関わる危険性がある。そのような事例を次に紹介する。

事例3)習慣が起こす恐ろしい事故 

 この話は、私がかつて働いていた会社で開催された交通安全講習会で、講師の警察官が特に気をつけるようにと注意喚起していた、ある頻繁に起こる交通事故についての話だ。内容は次の通り。
 
 ある運転者が、横断歩道のない2車線道路を車で走行中、対向車線側の歩道にお年寄りが一人、道を渡ろうと立っているのに気づいた。運転者はそのお年寄りと目が合い、お年寄りが走ってくる車の存在に気づいてくれたと安心した。きっと自分の車が通過し、安全を確認してからお年寄りは道を横断するだろと思い込み、運転者はお年寄りから目を離して前方に目を向け、そのまま走行を続けた。その直後に車はお年寄りを跳ねてしまった。

 実はこの時、運転者と目があったお年寄りは、運転者が自分の存在に気づき、車を止めて横断させてくれると考え、運転者がお年寄りから目を離している間に道を横断をしていたのだ。このタイプの事故は頻繁に起こっており、相当数のお年寄りがこの事故で命を落としているとの話だ。警察で事故を起こした運転者に聴取すると、お年寄りから目をそらした絶妙なタイミングで、お年寄りが横断してきてぶつかってしまったと、多くの運転者が答えるそうだ。

 この事例は、同じ場面にいる運転者とお年寄りの習慣的な思考が、完全に逆だったことで起った悲劇だ。運転者は、車道は車の走行が優先であり、走行してくる車に気づいていながら、歩行者が無謀な横断をしてくることはないと習慣的に考える。一方で、多くのお年寄りは、運転者が気づいてくれれば、車を止めて横断させてくれると通常考える。お互いに、想定外の事態が起こることへの想像力がこの一瞬機能せず、相手の想定外の行動を回避する注意を怠ってしまったのだ。

 この事例は事態の深刻さが違うが、先のドアの話と本質は一緒だ。一旦習慣として身についた行動や思考を、実行する場面で状況に応じてすぐに変更することは難しいのだ。習慣化には良い面ばかりではなく、このような危険性があることを十分に知っておかなければいけない。自分が身につけた習慣が普遍的に通用するといった意識を持たないよう、普段から、自分の常識とは逆のことが起こる事態や、自分とは反対のことを考える人の気持ちを想像する習慣を身につけたいものだ。



依存症を克服し、正しい生活態度を習慣化する方法とコツがわかるサイト。双子の犬(ハンドルネーム)のエッセイ第2弾。